最大の禁忌2



「はっ、やぁ!」
ナンナは藁人形に向って勢いよく剣を振り下ろした。
アレスはその様を見て苦笑する。ナンナの型はまるきりなってなかったからだ。
アレスとの馬上訓練を考えていたが、ナンナはあまりにも危なっかしかったし、
何よりアレスとの腕の差が有り過ぎていたため、
まずはナンナの型を固めてしまおうとアレスは考え直し、ナンナ用に藁人形をこさえた。
数日前よりは遥かにサマになってきている。

 ナンナはけして出来の悪い生徒ではなかった。
むしろ筋が良く、このまま往けば化けるだろうとふんでいたが、
アレスはナンナを前線へ出す事に不安と躊躇いがあった。

 …アレスは最近ナンナを目で追っている事が多かった。
自分でも気付かない内に。
でも確かに、確実に…。
ふと気が付くと、ぼんやりナンナを見ていた。
そして、ナンナが己を見返すのを待っていた。
そうしている意味も理由も、己の気持ちすらも解らずに…。

走向している内に、いつになく激しい暴風雨の為延期されていたアルスター攻めが開始された。

 特攻隊として、魔法に強いアレス隊そして本人の強い希望により
リーフとアーサーがアルスター城へ向かった。
しかし途中でアルスターの重鎧歩兵等と出くわし、混戦へと発展した。
混乱の最中、アレスはナンナの無事な姿を確認するため
目に映る敵を薙ぎ払いながら戦場を駆け回った。

 力の無いトルバドールは格好の獲物だ。
ナンナは敵を引き寄せ、囲まれていた。
ナンナの華奢な白い腕からは、無数の切り傷が刻まれていた。
白と白銀に、目にも鮮やかな真紅…。
その真紅をアレスは目にし、
そしてナンナを囲っている男達の目的を知り、頭に血が上り始める…。
不自然なほど高く大きく心臓の音が聞こえる。
己の中にあるモノだという事が信じられない程それは現実味を欠いていた。

「ぐはぁっ!」「ぅグ…」「ギャァァァ」「…」「ぁ、ヒァ、ヒッ!…」
モノも言わず切り倒される者、逃げ惑う者、
…様々な者が血飛沫を上げ、動きが緩慢になってゆく…。
ものの数分で息をしている者は、たった二人になった。
あれだけいた男等は、今はもうもの言わぬ唯の“物体”と化した。
嘗ては動き、考えていた“ヒト”とは思えぬほど、それは唯の物体だった。

 返り血が剣を、鎧を、何よりアレスを紅く染め上げていた。
肩を怒らせ、怒りで荒い息をする様は鬼人の様で、
敵も味方も遠巻きにしているしかなかった。

 それまでの振る舞いとは正反対な程優しい手付きでナンナを抱き上げ
己の馬に乗せると、
アレスは味方の待つ陣へ踵を返して行った。
勢いを盛り返した解放軍は一気にアルスター城へ攻め入り、陥落させた。




後書き

 やっとこさ終わりました〜。…にしても、途中ダークなのかしら?わからんが。
いったいどこら辺がダークの境界なのかなぁ?
私的にはもう少し巧く表現したかったんですが、
文才の無い、さらにボキャブラリーの無い私には、これが限界です。

この時点でナンナはアレスを「愛してしまったようぢゃ」
アレスはナンナを自覚なしで「好きなようぢゃ」です

 こんなものを読んで下さった方に、御礼申し上げますv

BGM ZABADAK-decade-



03.7.16 UP


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