得手不得手
「ねぇ、ブルー。あなたに苦手な事ってあるの?」
唐突にライザがそう問いかけ、エミリアがそれに同意するように頷く。
「そうよ。すっごい不思議!あんた術士でしょう?全然術士らしくないんだもの。
…そりゃ、術の威力は桁違いだし、頭も良いし、どっからどう見ても術士なんだけど…」
上手く言えないエミリアをリュートが遮る。
「ん〜。術士のわりに強いよな〜、ブルーはさぁ〜。
剣持たせりゃ俺やあのゲンさん以上だし、体術だってライザやエミリアより使える。
その上銃でさえブルーに誰も敵わないんだ。誰だって不思議に思うわな。
…ま、剣や銃なんてありふれてるから、キングダムでも教えてるんだろうけどなぁ〜」
したり顔で背のリュートをかき鳴らしながら言うと、ブルーは心外のように振り返る。
「何を言っている。俺は剣も銃も体術も、キングダムを出て始めて眼にした。
キングダムでは術以外は教えんぞ」
それだけ言うと、再び歩き出す。
そんなブルーを、4人は驚愕の声を上げて追うと矢継ぎ早に問いかける。
「お、おい、ちょっと待て。剣だってキングダムに置いてある筈だろ?
ルーンソードはキングダムで生産してるはずだ」
ブルーの肩に手を置き立ち止まらせて、ゲンが問い詰める。
生まれてこの方剣を見たことがないだなんて、あるはずがないと思った。
当然、ルーンソードはキングダムの術士が剣に魔力を込めているものだと思っていた。
「俺は印術なんて習ってないから、剣にルーンを刻めるわけないだろう?
それに、院でルーンを刻んでるわけじゃない。
あれは印術に精通してるキングダム出身の者が勝手にルーンを刻んで売っているだけだ。
キングダムの術士は、許可がない限り院から出ることは禁止されているしな」
いつもの無表情に、少しばかり不愉快そうな顔でさらりと言う。
彼が印術を扱える日は来ないのだから。
今彼は、秘術の資質を求めている…。
実用性を考えて秘術を選んだのだが、扱えない術がある事が我慢ならなかった。
たとえ人の身では相反する術が使えないとわかっていても。
それだけ未熟者だと言われている気がしたから…。
「じ、じゃぁ、本当にキングダムを出るまで見たこともなかったの?」
「正確には、お前らと会ってから初めて、だな。
話には聞いていたが、見るのは初めてだったな。しかし、やってみるとなかなか面白い。
術ほどの威力はないが、個々の威力は目を見張るものがある。…興味深いな」
一人うんうんと頷き、満足そうに笑む。
4人は信じられない思いでブルーを見、やがてノロノロと先を歩くブルーを追った。
誰もが…、ブルーでさえも忘れていたが、結局うやむやになってしまったブルーの苦手なこと…。
夜、シュライクの宿屋の一室…、ブルーが借りている部屋から、かすかな声が漏れる。
「……つっ…。……ふぅ……」
魔道着を手にし、先ほど針で刺した指を口に含むと小さく嘆息する。
「裁縫だけは、如何ともし難い…」
そう悔しそうにポツリと呟くと、窓の外の月を見上げる。
淡い陰影の中、色素の薄い髪を風に靡かせた。
後書き
ウチのブルーは苦手なものはないですvきっと。
最凶極悪術士です。
裁縫が苦手だったらかわいいなvとか思ってたらこの案が出ました。
針とかで指を刺して、忌々しそうに針を睨むのvvクソッとか言いながら指を銜えてまた縫うのvv
でも縫い目は綺麗だから女性陣に手先も器用とか思われてるの希望vv
ブルーって、器用不器用系ですよね…。(あ、けなしてる?いやいやそんな…)
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