妖魔




妖魔、それは美しく誇り高い種族…。
『他を魅了する美しさ』『他を威圧する恐怖』『他に屈しない誇り』
これらが妖魔の掟。これに値しないものは邪妖と称される。

格、妖魔社会で絶対的な力関係。
上から妖魔の君、上級妖魔、中級妖魔、下級妖魔、邪妖とされる。
妖魔の君は齢1000歳以上で降格しないものとされる…。






ここに、妖魔に追われる若者がいた。
いや、正確にいえば、若者に見える妖魔だ。彼はもう900歳を超えていた。
望めば妖魔の君にすらなれる実力が有りながら、煩わしさを嫌い故郷を放れた変わり者だ。
妖魔の国・ファシナトゥールは、変わり者の彼にとって、変わり映えのない退屈な世界でしかない。

そこに、故郷に対しての情は、ない。



きっかけは、大任を蹴ったことにある。
元々責任ある立場とは思えない彼を苦々しく思っていた妖魔達はこれ幸いと彼を断罪しようとした。
しかし、腐ってもファシナトゥールの実力NO,2の彼を捕らえられる訳もなかった。
彼は逃げた。いや、彼自身は逃げたとは思っていない。
只他の世界に行こうと思い、実行に移しただけだ。
それだけで、彼より下位の者たちは、彼を見失った…。





再び感じる妖気。さっき彼を追っていた者たちが、ようやく彼に追いついたらしい。

「ゾズマ、いい加減に針の城に戻ったらどうだ?
あのお方も、今なら御許しになるやも知れん」
居丈高にそう言う妖魔に対し、茜色の髪にエメラルドの瞳を持つ妖魔・ゾズマは軽く笑う。
上級妖魔の名に恥ずかしくない美貌の妖魔。
ファシナトゥールの時期統治者のはずだった、強大な妖魔…。
その美しい微笑みは恐怖すら覚えて、肌を粟立たせる。
「別に帰るつもりはないよ。それに、許して貰おうとも思ってない。
さらに言うなら、僕はすでに闇の迷宮をクリアした後だから
君如きにとやかく言われる筋合いじゃ、ないよ」
そういってにこやかに笑むと、妖魔はぐっと口篭る。

…妖魔の掟は絶対だ。
それがたとえどんな型破りな妖魔でも例外ではない。
ぐうの音も出なくなった妖魔を見、満足そうに踵を返すと負け惜しみとも取れる言葉を喚き散らす。
「き、貴様、逃げる気か?
今逃げた所で、次々と貴様を追う者が増えるだけだ」
その言葉に、ゾズマが足を止める。
脈ありと見た妖魔に向かって振り向きもせずに軽く、本当に軽く手を振る。
まるで、あっち行けと言わんばかりの緩慢な動作だった。







突然、妖魔たちは倒れ伏す。
その身は鋭い刃物で切られたかの様に切り裂かれ、相好の判別がつかなくなっていた。
五体満足だったはずが、たったの一瞬でバラバラにされたのだ。
内臓が切り裂かれ、体液を一緒くたに混ぜ、垂れ流す。
鮮やかな青の液体と、それに混じる液体、つんとする独特な臭い…。
それらが総て混じり合い、小さな地獄絵図を醸し出している。
ゾズマはようやく振り返ると、唯一脳が垂れ流れていない妖魔にゆっくりと近づいてゆく。
ビクビクっと震える頭を踏付けながら無邪気な子供のように、愉快そうに柔らかく微笑む。
「君ら程度の妖魔が何十、何百人と来ようが、僕は一向に構わないんだ。
今だって、僕に反撃もできずにこの様だ。情けないね?
…僕を何とかしたいなら、オルロワージュ様直々でないと、いけないんだよ。
…僕を誰だと思ってる?仮にもあの方に次ぐ実力を持っているんだ。
君ら程度でどうにかできるわけないって、わからなかった?」
そう言って、ぐりぐりと頭を踏みにじると、足元の妖魔が苦悶の声を漏らす。


意識はある。…当然だ。わざと消滅しないように切り刻んだのだから。
僕に楯突いた事を、後悔させてからじゃないと、消滅はさせないよ?
妖魔ってのは馬鹿なくらい誇り高いからね。
こうして僕の前に倒れているだけでも、消滅しそうなくらい屈辱的だろう?



どのくらい、耐えられるかな?



「君も、こんな破天荒な妖魔に分けも分からず切り刻まれて、不憫だね?
どうせ、何時切られたのかも分かってないんでしょ?
ああ、僕の妖力の変化には気付いたのかな?」
嬉しそうな問いかけにも、妖魔は苦しげに、悔しげに呻くだけだった。
「あれ?それにも気付いてなかったの?君ホントに上級妖魔??やだなぁ。
これから僕の後継とも為り得る上級妖魔たちがその程度なら、ファシナトゥールももう終わりかなぁ」
やれやれとお手上げポーズをしてみる。
「……ぐ…、ぎ、ざまっ…!」
憎憎しげに睨む妖魔の目線を、おーこわと言って笑って受け流す。
妖魔の口からは大量の血が溢れ、瑪瑙色の髪を紫に染め上げていった。
興味深げに妖魔の様子を眺めていたゾズマは、不意につまらなそうに顔を顰める。
「もう、いいや。飽きちゃった。ばいばい」

にっこりと笑んで、妖魔の頭を踏み潰す。

「さぁーって、どこに行こうかな〜♪」
今さっき自分がした事など忘れたかの様に微笑む。。
空間転移をした瞬間、人間の悲鳴を聞いたが、彼はこれまた笑って誰ともなく言う。
「大丈夫。妖魔は消滅すると消えるから。血は残るけど、それは僕の所為じゃないしぃ〜♪」
鼻歌まじりで彼は次のリージョンへと跳んだ。




後書き

見ずらくってごめんなさい。
こんにちは。サガフロのお題10番目でございます。
案はブルーだったのですが、なんか煮え切らなかったのでゾズマに変わってしまいました。
そしたらなんか、ダーク路線一直線に…。わ、私はダークが好きなのか??
読むのはいいが、書くのは遠慮したい部類だったのに…。
でも、私のゾズマのイメージはこんな感じです。
一言で言えば、お子様。子供って、残酷ですからねぇ〜。






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