いじわる
珍しく静かだった魔法院に、元気な声が響き渡った。
「こんにちはぁ〜。…あ、ユニシスさんこんにちは!」
花のようににっこりと笑う少女を出迎えたのは、見事な金の髪に美しい翡翠の瞳を持つ少年だった。
ユニシスは少しの期待を込め、目の前の可愛らしい少女に問いかける。
「あ、ああマリンか。今日は何の用で来たんだよ。」
しかし、マリンはユニシスの期待を裏切る言葉を紡ぐ。
「え?今日ですか?今日は先生に見て頂きたいものがあって…」
そう言うマリンの手には数冊の本と、…可愛らしくラッピングされた袋が一つ…。
ユニシスは己の心臓の鼓動が少なからず早くなるのを自覚する。
もしかして…、そうであって欲しい…。
そんな希望的観測が頭をよぎる。
「お前何持ってんの?」
そう言った声は少し上擦っていたが、
本の上にちょこんと乗っけられていた袋を取られた事に気がむいた為
マリンには気付かれずにすんだようだ。
「あ、か、返してください。それは…」
慌てて取り返そうと手を伸ばしてくる様に、期待はあっさりと崩れ去る。
代わりに支配する感情は、嫉妬。
マリンが手作りのお菓子(袋の大きさからしてクッキーだろう)を上げたいと思わせる人物は、
ユニシスの知りうる限り1人しかいない。
マリンが師事している、ユニシス自身が何よりも尊敬している人。
ヨハン=ハーシェル。
ヨハンの人柄を知って、彼を慕わない者は居ないのではないかとすら思う。
ユニシスにとって、絶対の人。
だけど、それがかえって面白くない。
ユニシスは、一生懸命手を伸ばしてくるマリンを押しのけ、袋を開けると、一気に口の中へ頬張る。
ああ〜〜!!というマリンの悲鳴をバックに、ユニシスは口の中身を飲み下すと、
文句あるか?と言わんばかりの笑みを浮かべる。
「まぁまぁだけど、少し甘いな。そんなに甘くない方がいいと思うぜ」
助言とも取れることを言われ、マリンは首を傾げる。
「え?甘いのが好きだって、アクアさん言ったんですけど…?」
「アクアの奴の言うことなんか、間にうけんなよなぁ?
誰よりも、先生の好みは俺が知ってるんだから」
ユニシスが自信満々に言ってから暫くマリンは無言だった。
ユニシスが不審そうにしたと同時に、マリンの楽しそうな笑い声が響いた。
「あはは。ユ、ユニシスさん、それ、先生にじゃなくて…、ふふ、…アクアさんに、
も、持って来たんですよ」
笑いながら告げられたことは、自分の思っていた事とずいぶん違くて、
ユニシスは真っ赤にしながら声を張り上げる。
「勝手に勘違いして…、勝手に嫉妬して…、勝手に人のモノ奪って…、
あまつさえ喚き散らすなんて…。何て…、みっともないんでしょ」
聞き覚えのある声に振り向くと、アクアが笑いながら2人の様子を見ていた。
「アクアさん!何時からいたんですか?」
「割と、最初から…。ねえ、マリン。クッキー…。
…ユニシスが食べた、私の分の替わり…。ユニシスの分…。私が食べる…。」
にっこり笑いながら、自分の分(らしい)の
袋を取り出すマリンに、ユニシスは慌てた。
「お、おい、何で俺の分のをお前にやらなきゃいけないんだよ!」
「…だって、ユニシスが先に私の分、盗った。
だから、私が貴方の分を貰ったって、可笑しくないでしょう?」
拗ねた様に言われ、言葉に詰まる。
「食べ物の恨みは、恐ろしいのよ…。」
マリンがユニシスに向かって口を開く。
「ユニシスさんにはもうお菓子作ってきません!
意地悪して取り上げて、一気に口に放り込んで、
味わってくれない人に作ってきても、作り甲斐がないです!」
そう言う様が、本当にショックそうで、憤慨しているらしくて…、
この少女がこんなに怒るとは思わなくて…、
「…ごめん、マリン。」
ユニシスが頭を下げたことに、マリンもアクアも驚いたように表情を少し動かす。
「行こ、マリン」
気を取り直したようにマリンの手を引くアクア。
そのままアクアの部屋へと入っていく。
後には、瞳を伏せたままのユニシスが立っていた。
「…少し、苛め過ぎたでしょうか…?」
心配そうに扉を伺うマリンに、アクアは極めて冷静に返す。
「あのくらい平気よ。そんな柔じゃないもの。
それに、いつも私たちに意地悪してるんだから、このくらいは許されるわ。
心配なら、また明日あの子用のお菓子を作って、種明かしするのね」
「そしたら、すっごく怒るでしょうね」
「大丈夫よ。怒ったとしても、本気じゃないわ。むしろ、安心するはずよ」
「でも、ユニシスさんがあんなに落ち込むなんて、思いませんでした」
「……そぉね。…ふふ…。お菓子を作るんなら、
チョコ系がいいと思うわ。ユニシス、好きだから」
クッキーを一つ一つ頬張りながら、考える。
「(ユニシスの弱点…、発見…ふふ)」
翌日、マリンが昨日の種明かしとお詫びをこめて作ったトリュフを、
怒りながら、しかし照れくさそうに、嬉しそうに受け取るユニシスを見て
アクアは1人、ほくそ笑んでいた。
奇しくも、その日は14日だった。
後書き
ユニシスvマリンです。当初の予定と大幅に変わってしまい、
長めになってしまいましたぁ〜。
お題は短編にしましょと思っていたのに…!くそう。
(後書き抜かしてスクロールなしの長さ)
初めは、ユニがマリンを苛める予定だったのが、
いつの間にかマリン+アクアがユニを苛めてました(苦笑)
2人は、前日にでも相談してます。
ちなみに、ユニが食べたクッキーは、ユニ用のものです。
後、分化寸前ということでv
BGM 悪霊狩り〜ゴーストハント3「えびす異神論」
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