告白 ナルSide
いつものように書籍に目を落としているとドアがノックされた。
いつもより大分早い時間に。
…リンか、依頼人か…?
そう思い開いている旨を伝えると、麻衣が入ってきた。
麻衣は頬を染めたまま数回深呼吸する。
その様子に僕は内心首を傾げるも、麻衣の言葉を待った。
その直後僕は絶句した。いや、絶句というより固まったといった方が的確かもしれない。
「あのね、ナル。…あたし、ナルのこと…。すごーく、特別な意味で、…好き、だよ…」
すぐに自分を取り戻す事に成功したが、僕の心に暗闇が擡げた。
「(僕をジーンの代わりにするつもりか?僕は僕だ。
…ジーンには、なれない…)」
……いくら顔が、一緒でも…
麻衣がそんな事をするヤツとは思ってない。
むしろできないだろう。麻衣は自分の気持ちに正直で不器用な人間だ。
そのくらいわかっている。他でもない、麻衣の事なら…。
だが、未だ麻衣はジーンが好きなのだろうと思うと、僕の中の闇が凄い勢いで僕を侵食していった。
「……くだらない事に割く時間があったら、とっとと仕事をしろ!」
ずっと下を向いていた麻衣が、傷ついた様に顔をあげ、僕を見た。
その表情は、僕の罪悪感を刺激するが僕はなんでもないように本へ目を落とす。
「ナルにとっては、くだらなくても…、私には…、とっても大事な、事、で…」
麻衣を傷つけた罪悪感よりも、己の中に巣食う暗闇が勝った。
「いい加減にしろ!」
少し強めに告げると、麻衣の体が震えた。
「仕事の邪魔をするつもりなら帰れ!!」
そう吐き捨てると麻衣の頬に透明な雫が零れる。
それが涙だと理解すると同時に麻衣が拭い、小さく震えた声でごめんねと言うと部屋を出て行った。
…何故、麻衣が謝る?むしろ謝るべきは僕の方だと言うのに…。
心無い言葉で、麻衣を傷つけた……。
…麻衣の心が、僕に向けばいいと願った事はない。
ただ、ただ麻衣が幸せであればと、笑っているならそれでいいと。
ただ、そう願った。
願った僕が、泣かせた…。
思えば、いつも麻衣を泣かせるのは僕なんだな…。
僕といても、麻衣が笑うことがないのなら、麻衣の心なんか、いらない。
仕事が手に付かないでいると、所長室のドアが開いた。
入ってきたのは麻衣とジョン以外の人間。皆顔を強張らせている。
…いや、安原さんだけは、いつもと変わらない笑顔だった。
ふっと、笑いたくなった。もしかすると、笑みを浮かべていたかも知れない。
……自嘲の笑みを……。
松崎さんが、眦を上げ吼える。
「あんた、麻衣に何言ったのよ!」
「別に何も?」
「何もなくて麻衣が泣くかよ。…ナルちゃんや、麻衣は真剣なんだぜ?…わかってんだろ?」
「ナル?わたくし、言いましたわよね。
麻衣を泣かしたら赦さないって。憶えておりますでしょ?」
皆が皆、僕を責め立てる。…当然だな。
…僕が、麻衣を、泣かせた…。
松崎さん、ぼーさん、原さんが積極的に僕を責め、リンと安原さんは不気味な沈黙を守っていた。
やがて、言う事が尽きたのか、3人は静かになった。
僕がほっと息をつく間もなく、安原さんがにこやかに笑む。
「所長」
「はい」
「所長は、アレですね?
谷山さんが、所長をお兄さんの代わりにしてるんじゃないかと思ってらっしゃるんでしょう?」
「……僕をジーンの代わりにしても、意味がないでしょう?
性格が正反対なんですから。
そもそも、麻衣がそんな器用なまねが出来ないことくらい、知っています」
…そう、知ってる。いや、解ってるんだ…。
解ってるのに、腹立たしい。
麻衣が、未だにジーンが好きだと思うと…。
「いやですねぇ〜、所長ったら」
安原さんの言葉に、はっとする。
どうやら、己の思考に入り込んでしまった様だ。
「お兄さんにヤキモチ焼いてたんですね〜。
……まだ谷山さんはお兄さんが好きだと勘違いなさってるんでしょう?」
少しの反応を赦してしまった為か、ぼーさん達からあからさまな嘆息が漏れる。
「バッカみたい。麻衣が今好きなのはあんた!わたしと真砂子にはよく解るわ」
「麻衣見てれば、お前だって解るだろう?」
「ナル?今、ブラウンさんが、傷心の麻衣を慰めてますの」
それでいいのかと、皆の眼が問いかけている。
無言の僕に、ぼーさんたちは再び嘆息を零し、所長室から出て行った…。
静かな一人きりの部屋で、考え込む。
麻衣にジーンの写真をやったことは、後悔していない。
初めから、そのつもりでルエラから写真をもらっておいたんだ。
麻衣が、少しでも元気になればと思って…。
麻衣が、誰を好きになろうと、関係なかった。
あの月夜で聞いた、麻衣の言葉…。
僕じゃないと、解っていた。
麻衣が語る、麻衣の見ていた人物が誰か…。
麻衣が見ていたのは僕じゃないと…。
言いなれた質問。いつもと変わらない回答。
ただ、麻衣というだけで、こんなにも心がざわめいた。
少なからずの、衝撃すらあった。
やはりと言う思いと、…そして……。
僕にとって、麻衣はどういう存在なんだ?
ただ、側にいて欲しかっただけか?
…紛らわせて、欲しかった?
僕は…、一体、どうしたい…?
後書き
あはは〜。(もう笑うしかない状態)
ん〜〜、そこはかとなくバッドエンドチック(苦笑)
でも、最後にはきっと幸せがっ…あるはず…。あるかな?あったらいいな…。
やっぱりナルはむずい!偽ナルですみません。
私は『ヘイキ!』を読んだ瞬間に、
ナルが、あのナルが麻衣の為にルエラから写真を貰っておいたんだと信じています。
(パクっておいたってんでもオッケー)
そしてさぁ、やっぱり麻衣もナルでなくてジーンを選んだって事に、
顔には表さないけど、ショックを受けてたのではないかなぁ〜?と。
ナルは麻衣をジーンの代わりにしてたんじゃないかとも思います。
性別こそ違うけど、性格はそっくりだし、ナルも、きっとショックから立ち直ってなかった。
寂しくて、誰かに側にいて欲しかったのでは?と…。
(リンさん側にいたけどね・苦笑)
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