告白 麻衣Side



綾子と真砂子に背中を押され、ぼーさんやジョン、安原さんに励まされ、
リンさんの縁起のいい笑顔を見て私は所長室のドアを叩く。
返事を待ってから部屋に入ると、不思議そうな顔をしたナルがいた。
そりゃそうだ。普段はこの時間はお仕事中。お茶の時間にはまだ程遠い時間なのだから…。
私は二三回深呼吸をし、ナルに向かう。
「あのね、ナル。…あたし、ナルのこと…。すごーく、特別な意味で、…好き、だよ…」
一言一言噛み締める様、言葉にしていった。
…絶対、顔真っ赤だ、今…。
恥ずかしい、と思う。でも、知ってて欲しいから…。私にとっての、ナルの存在を…。
どきどきしながら待つ沈黙は、羞恥を感じるには十分で、私はこの場から逃げ出したくなってきた。

暫くしたら、ナルが口を開いた。私の好きな、声で…。
「……くだらない事に割く時間があったら、とっとと仕事をしろ!」
ナルの瞳…。私の大好きな、とても綺麗な瞳ははっきりと、拒絶が表れていた…。
拒絶のほかに、不確かな色が見えた気がしたけど、よく分からなかった。
複雑な色の瞳は、私を映す事を止め、手に持っていた本へと視線を移す。
私は声が震え、固くなるのを感じた…。
「ナルにとっては、くだらなくても…、私には…、とっても大事な、事、で…」
「いい加減にしろ!」
ナルが私の言葉を打ち消す。
ナルの声はとても冷たく、私はびくりと身を強張らせる。
「仕事の邪魔をするつもりなら帰れ!!」

拒絶、拒絶、拒絶…。

私じゃぁ、ナルの中に入っていけない…、そう思った。
予想はしていたけれど、覚悟はしていたけれど…。
やはり堪えた…。知らず知らずのうちに流れた涙に気付き、慌てて拭う。
これ以上、ナルに嫌われるのは、ナルに邪魔に思われるのは耐えられなかった…。
ごめんねと言って部屋を出る。
振り返りざまに見たナルの瞳は、とっても複雑そうな色をしていた…。



応接室に戻った私は、綾子や真砂子に抱かれ、泣いた。
二人の温もりが暖かく、嬉しく、そして少し切なかった…。
真砂子に、「同病相憐れむだね」って言ったら怒ったような、困ったような、そんな複雑な顔をした。
皆は顔を見合わせ、私をジョンに頼むと所長室へと向かう。
ジョンに優しく肩を抱かれながら、皆を止めようと声を出す。
涙で掠れた声はあまり響かなくて、足止めになんかならなかった…。
私はこれ以上ナルの邪魔になることを恐れてまた泣いた。


恋はこんなにも人を弱く、駄目にする…。


そんな私を、ジョンが優しく気遣ってくれる…。
「大丈夫ですよって、麻衣さん。さ、涙を拭いておくれやす。
麻衣さんにはいつも笑ってて欲しい思います」
そう言うジョンからハンカチを受け取り、顔に押し付ける。
ジョンは優しい。皆も優しい…。でも、でも…!……ナルも、優しいの…。


皆の優しさが、涙を余計に流させた…。



…私、何でこんなにナルが好きになっちゃったんだろう…?
ジーンの時もすっごく泣いて、もう、恋なんかしないって思ったのに…。
…気付いたら、こんなにも好きになってた…。


ナルの低めの、心地よい声が好き…。
ナルの気持ちが表れる、澄んだ漆黒の瞳が好き…。
そして何より、所々に見え隠れするあなたの優しさが、大好き…。
照れ屋な貴方の、わかりづらい不器用な優しさが…。


私がこんなに貴方を想っても、貴方は私を想ってはくれない…。

それは、知ってたの…。
ナルに振られたのはショックだけど、わかってたことだから…。
ナルが私なんかを好きになるはずがないって、わかってたから…。
きっと、きっとすぐに立ち直れるよ。
辛い気持ちでナルを見なくちゃいけないのは、悲しいけど…、
でも、それでもすぐに立ち直って見せるから…。



皆、ありがとう…。…ごめんね…?





後書き

ごめんなさいっっ!!
い、言い訳をさせて頂けたらすっっっごく嬉しいなぁ思います。
えっと、この話では、麻衣とナルはくっつきません。てか、振られてますね…。
いえね、ほら、ナルって、あーいう人だから…。
でも、ちゃんとくっつけますよ!腐っても私はナル麻衣派ですから!!
では、ナルSideで再び会えます事を祈ります。
切に(^^;


03.10.9 UP


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