If...ナルvr




あの日あの時あの場所で僕が“五”と言わなかったら、
あの日あの時あの場所でリンが怪我をしなかったら…、
僕達は互いの存在を知らずにすんだのかもしれない。
…こんな複雑怪奇な感情を抱かずにすんだのかもしれない。
でも、僕達は出遭ってしまった…。
何の因果か、…運命の、悪戯か…。



 最初僕は4人の女学生の顔なんか見ていなかった。…見ても仕方ないから。
僕を見て、思った通りの悲鳴が上がる。…煩い…。
しかし、1人だけ、麻衣だけは声を上げずにただ驚いた顔をし、僕を観察していた。
その瞳は不審気で、僕は内心驚いた。
…麻衣は気付いていただろうか、僕が3人の南瓜どもを嘲っていた事に。
 麻衣が僕に話し掛ける声は、南瓜みたいな気色の悪い猫撫で声ではなく、
素気ない声だった。…麻衣に、少しばかりの興味が湧いた。

 麻衣がリンに怪我をさせてくれた御陰で、人手が足りなくなった。
僕だけでも平気だが、最低でもあと1人欲しいところだ。
怪談次いでに麻衣に責任を取らせることに決め、教室に入ると、
昨日の3人が煩い声を上げる。思わず顔を顰めそうになりながら見ると、
麻衣と眼が合う。こういう人間は余り周りに居ない。…ただの興味だった、最初は。
麻衣はジーンに似ていた。すぐ感情移入する所、よく泣く所、そして、よく怒る所…。
クルクルクルクル、目覚しく変わる表情…。
いつの間にか、麻衣の表情に吸い込まれていった。
『ナルなんて大嫌いだからね!』
十分な説明をしなかったが為に、言われた…。…泣きそうな顔で、怒っていた…。
…悪かったと、思っている。とても不安にさせた。辛かったろう…。

泣かせて…、無理をさせて…、…悪かった…。

 麻衣に辛く当たっている僕が倒れても、泣きそうになりながら、安否を聞く。
…また、不安にさせた…。…だが、そんな麻衣の当たり前優しさが、有難かった。

 ジーンが上がる少し前に、麻衣が僕のことを好きだと言ってくれた。
嬉しさや照れくささが出る前に、当たり前のように出た言葉…。
『僕が?----ジーンが?』
麻衣が驚いたように眼を見開き、そして、泣いた。
…一回もジーンをジーンと呼ばなかった事への詫びと悔やみ…。
解っていた事だ。僕とジーン、選ぶなら迷う事無くジーンだという事を。
いつもそうだから。いつもは、そんな事どうでもよかったから…。
だが…、麻衣に言われると、さすがに少し堪えたみたいだ…。
けど、麻衣が泣いている。もう、この世には居ない、愛しい愛しい人を想って…。
そんな麻衣の涙が綺麗だと、何よりも綺麗だと、場違いな事を、思った。

 オフィスが残ると知った時の麻衣の笑顔、
ジーンの写真を見た時の、哀しいまでの綺麗な笑顔…。
--ああ、そうか…。僕は…、この笑顔見たさでオフィスを…、写真を…、麻衣に…。

 今もまだ、麻衣はジーンのことが好きなんだろう。
だが、別に構わない。麻衣が笑っていてくれるなら…。
こんな僕にも、笑い掛けてくれるなら…。
 …君が笑って、まだ、僕の傍に居てくれるなら、他に何も望まない。
好きにならなくていい。只の上司で構わない…。
だから
 オイテイカナイデ、ソバニイテ…。
 もう二度と、置いて行かれたくは無いから…。

…ジーンのように…。



 後書き

 終わりました〜〜。ナルは、わりかし感情が乏しいから難しいですね〜。
まぁ、私のナルはニセモンなんで、怒らないでくださぁい。

『ああ』の部分ですが、個人的趣味で『嗚呼』の漢字使いたかったんですが、
ナルの脳の具合が心配になり、やめました。(心配なのはお前の脳だ!)
あと、『笑って』の所なんか、『哂って』ですからね。
麻衣が狂っちゃったみたいで、なんかヤです…。
最後の、ジーンのようにの後に、両親のようにって入れる予定だったんですけど、
さすがにそんな昔のことをナル坊がショックなわきゃねーわな思い、
ジーンのみにしました。したら語呂が悪いから誤魔化してみた。なってないけど…。


BGM ZABADAK-桜- (psi-trailing)


03.7.12 UP



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