If...麻衣vr
あの日あの時あの場所であいつが私達の目の前に現れなければ…。
あの日あの時あの場所であの人に怪我をさせなかったら…。
私は普通にバイトして普通に学校へ行って普通に暮らす、
ただの苦学生に過ぎなかった…。
でもあいつは現れた…。…私達の、目の前に…。
出逢いは、まだ普通。怪談をしていた私達に突然あいつは声を掛けた。
軽く自己紹介するものの、私には胡散臭くてしょうがなかった。
だって笑ってるのは口だけで、目元がぜんぜん笑ってない!
そんな不穏な笑い方する奴とどうすればフレンドリーになれるっていうのさ!
2度目は…、睨まれた。…だってしょうがないじゃない!
あんな所にカメラがあったら誰だって気になるわよ!私の所為じゃ、なーい!
そして3度目の出逢い、これがもう最悪!
あいつはカメラの弁償を言ってきた。
…そりゃあ不可抗力とはいえ、壊したのは確かに私。
人にも怪我をさせてしまったしと思い金額を聞くとびっくり!
苦学生の私には勿論の事、一寸裕福な家庭でも
払えない様な金額を口にするんだもん!
…ま、弁償の替わりに助手として扱使ってくれましたけどっ!
…あの日あの時あの場所で、怪談をしてなかったら、
あいつは…、ナルは私の事なんか知らなかったし、
私もナルの事知らないでいられた…。
…あの日あの時あの場所で、ビデオを見つけなければ、
…リンさんに怪我をさせることもなかった…。
そうすれば、あんなに辛い思いをせずに、すんだのかな…?
ジーンとの悲劇の大恋愛が終わり、泣いて泣いて、
涙が枯れそうな程泣いた。もう恋なんてできないって思うほど
辛くって、悲しかった。そして私は、人を好きになるのが怖くなった。
ジーン以外の誰かを好きになったら、ジーンの事を
簡単に忘れたみたいで…、もう、どうでも良いみたいで、怖かった。
真砂子と綾子が相談に乗ってくれて、叱咤して、励ましてくれた。
ジーンの優しい笑顔と優しい声、大好きだったの…。
もう一生立直れないって、忘れられないって思ってたの。
でも、人の記憶は曖昧で、次第にジーンの想い出が薄れていった。
それが又悲しくって、寂しくて…。でももう涙が出ない。
あんなに好きだったのに、あんなに悲しかったのに、
薄れた想い出はどうしようもなくて…。そして思い出すのは彼の双子…。
似ているのは見た目だけ。性格なんてまるきり正反対で…、
憎たらしいほど冷静で、憎たらしいほど自信家で、
でも…、時々、優しくて…。嫌いじゃ、なかったの…。
そして私は又思い出す。初めて逢って、解決した旧校舎の事件。
ジーンの夢を見る少し前。ナルと別れられると喜んでみたけど、
どこかで、良く解らないナニかが引っかかった。でも、それがナニか解る前に
ジーンの夢を見て、そして私はジーンに恋をした。
いつか誰かが言っていた…。…ナルが、言っていた…。
「顔が同じで才能も同程度。一方は性格が善くて一方は悪い」
あの時すぐに、善い方何て言って、ごめんね。
余裕がなかったなんて、言い訳だけど…、
失礼な言い方して、ごめんね。
じゃないと立直れないなんて、言い訳だけど…、
ジーンを想うと辛くて悲しくて…。
ルエラやマーティンやナルの方が辛いのに、悲しいのに…、
解ってるのに、先に泣いちゃって、ごめんね、ナル…。
ジーンへの気持ちに自分なりにケリを付けて、いつも通りにバイトに行って、
そしたらナルが優しくて…。普通の人なら見逃してしまう不器用な優しさ…。
ナルの微かな、けれど確かな優しさを感じて、
私の心にジーンの時とは少しだけ違う気持ちが段々芽生えてきた。
ナルをジーンの代わりにするの?と、私は自分で嫌になった。
…けれど違う。私はもう、彼らを同一視はしていない。
…否、出来ない。だって、二人の違う所、ちゃんと知ってるから!
ナルはジーンとは違う。ジーンはナルとは違う。
でも、ナルもジーンも個互にとっても優しい…。痛い位に優しくて、
ナルを好きになっていいの…?そう、優しいダレかに問い掛ける。
返事は勿論ないけれど、私の中が暖かいモノに満たされる。
…自分の中で決着がついた恋は、もう恋じゃないから…。
どうか、あの人を、ナルを見守っていて下さい…。
バイトへ行って、ぼーさん、綾子、真砂子、ジョン、リンさん、安原さん、
そして…、ナルにお茶を入れる。皆美味しいと笑ってくれる。
ナルは、ナルの為に考えて、選んだ紅茶を、…何も言わないけど、
言ってはくれないけど、全部飲み干してくれて…。
そんな些細な事が、こんなにも嬉しい。こんなにも大切…。
まだ、ナルには言わないけど、
『ジーンの時より、ずっとずっと、ナルが好きだよ。』
困るの解るから、困らせたくはないから、まだ、私の中で眠らせておくよ。
だから、だからまだ側に居させて。置いて行かないでね。
お母さんみたいに、…ジーン、みたいに…。
後書き
どーも、ここまでお付き合い下さいましてありがとうございます。
えっと、断っておきますが、私は麻衣がジーンに恋をしていることに
否定的ではありません。恋じゃないからの件ですね。
振られて、気持ちの整理が付くと、良い思い出になりますんで、
そういう意味で恋じゃないからの件を書きました。(分かると思うけども)
まあ、頑張ったんで、努力だけでも認めてやって下さい。
私の拙い文章を読んで、何かしら共感して頂けたら幸いです。
03.7.9 UP
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