Only you beabsent…
「何よ、アゼルの馬鹿!!もう、大っ嫌い!!!」
静かな初夏の午後、長い廊下に甲高い少女の声が響き渡る。
「ティルテュ、あのね、僕が言ってるのは…」
慌てて弁解を試みるが、怒りで頬を昂揚させた少女は
聞く耳持たないと言うように踵を返し走り去って行った。
後に残された少年、アゼルは一つ嘆息した。
「もうもうもう!信じらんない、アゼルったら!!」
ぎゃーぎゃー喚きながらティルテュは次々とお菓子を口に運んでいった。
「アゼルの事だから、悪気があって言ったんじゃないと思うんだけどなぁ」
可笑しいなぁと言わんばかりにシルヴィアは首を傾げる。
「悪気があったら余計性質が悪いわよ!」
ショートケーキにフォークを突き刺し怒鳴る。
「あの…、もう少し落ち着かれたほうが…」
「そぉよぉ。アゼルがそう言うには訳があるんだから、きっと。あんたが信じてやんなくてどうするのよ」
二人に諌められ、少し冷静さを取り戻す。
「………だって…。いきなり、酷いよ…」
しゅんと項垂れ、下を向く。声が少し潤んできているティルテュに、慌てる。
「ぁ、テ、ティルテュ?」
「あーー、こ、このトリュフおいしいねぇ。ティルテュも食べなよ」
「………んーん。もう、いらないから…。ちょっと、歩いてくる…」
本格的に沈み始めたティルテュに、何も言う事ができなくて、しかたなく黙って見送った。
「(もう、私のことが嫌いになっちゃったの…、アゼル)」
ティルテュはアゼルに問いかけながら、己の腹部を撫でた。
「(お父様は、私を見捨てる気でいる…。もう、…私はアゼルしか…、いないのに…)ぅっ、ぇ…、う…」
泣くまいと必死で堪えるものの、意思に反して涙は後から後から溢れてくる。
立つのが辛くなったかの様に、その場に崩れ落ちる。
「ティルテュの事、お願いします」
「…貴方は、本当にそれでいいのですか?」
「…もう、決めました。ティルテュの為、生まれてくる子の為に…。
それに、単なる胸騒ぎなら、いいんです。すぐに、迎えに行きますから」
だって、ああでも言わなきゃ、絶対付いて来る子ですから。
そう言って、アゼルはクロードの部屋を出た。
翌日、クロードの進言により女性をイザークへ連れて行くことになった。
しかし、多くの女性が「最後まで付いて行く」と言い張りイザーク行きを却下した。
イザークへ赴くのは、恋人にどうしてもと言い切られた者達だ。その中に、ティルテュが含まれていた。
ティルテュはアゼルの姿を探すが、すでにシグルド等と共にバーハラへと向かって行った後だった。
「ティルテュ、何してるの?行くよ」
「…ぅ、ん…」
呼ばれるままに馬に乗る。名残惜しそうに、後ろを振り向いたらバーハラ上空に隕石が出没した。
ティルテュは血の気が引き、馬をバーハラへ向けて走らせていった。
隕石を見た女性たちは悲鳴を上げ、恋人達の名を叫ぶ。
狂ったように泣き喚く者、ショックで声を上げられない者、がたがたと震え、崩れ落ち嗚咽を漏らすもの…。
そんな中、シルヴィアは静かに恋人クロードを想った。
「(アゼル、アゼル、アゼル!!)」
あたり一面の焼け野原のバーハラに、ティルテュは呆然とするしかなかった。
「な…、によ、これ…。ぁ…、アゼル…。アゼルは…?」
自然と小刻みに震えてゆく身体を抱きしめ、ティルテュは人々を見回す。
バーハラ城の前に、ティルテュの見知った者達が静かに横たわっていた。
剣による裂傷や、メティオの業火によって気管を焼かれた者や、岩に身体の一部分を潰された者…。
生きているのか死んでいるのか…。それは判然としなかったが、ティルテュは愛しい者を探した。
アゼルはいた。明らかに他の者とは違う、焼き爛れた顔…。
身に着けている物で、かろうじてソレがアゼルだと解らせた。
アゼルと同じく、焼け爛れたシグルドのすぐ側で息絶えていた。
シグルドの近くにいた彼…。きっと、シグルドを庇ったのだ。そういう人だから…。
シグルドとアゼルはすでに冷たく、事切れて大分経ったのがわかる。
それでも放心したように、ノロノロとした動作でティルテュはアゼルの頭を抱きこむと、
起きてくれとの願いを掛けながら恋しい者の名を幾度も呼ぶ。
「いやぁ、いやよ…アゼルぅ…。置いていかないでよ…。もう…、貴方しか、いないのに…。
アゼルしか、いないんだからぁ。アゼル、アゼルぅ…」
反応のない冷たいアゼルを強く抱き、ティルテュは泣き叫んだ。
「いやああああああ!!!!!アゼルぅうう!!!!!!!」
少女の身を引き散らんばかりの叫びはしかし、いやな程澄み渡った青空に溶けて消えていった。
やがて少女は、シレジアで女児を産み落とし、
揃いの、この世で誰よりも愛しい男の形見となったペンダントを二人の子に与える。
あの悲劇以来、少女が涙を流すことはなかった。
後書き
アゼルvティルテュですが、なんか悲恋っぽいぞぉ?あれあれぇ?
予定ではアルヴィスと口論になったアゼルを助けるんだったんだけどなぁ。
やっぱりそこでティルが死んだらティニーが生まれないから無意識に変えたのかなぁ?
(思いっきしティル殺すつもりだった管理人…。)
あっ石投げないで下さいっ。…いやぁね?
「兄さん、こんな事もうやめて下さい!」
「アゼルか…。お前も私に逆らうのか?幾らお前でも、私に逆らうならば容赦せんぞ」
「兄さん!!」「…仕方ない。喰らえ、アゼル!ファラフレイム!!」
「アゼルーーー!!」「ティルテュ!:!どーして来たんだ。来るなってあれほど…」
「(ファラフレイム喰らう。)アゼル…(お陀仏)」「ふ、馬鹿な娘だ」
「…(効果音にゴゴゴ希望)よくも、よくもティルテュを!!エルファイアー!」「ファラフレイム!」
というような展開にして、二人とも殺そうかと考えてたんですよ。なのにティル絶叫。
あれぇ?
BGM 雲の五線紙 未来の為に… BlueMoon
03.9.30UP
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