釣り




「おーい、葵ーー。…はぁ、やぁっと見つけた」
紫紺の髪を揺らし、美しい黒髪の少女の手をとると歩き出す。
「なんじゃ?そんな引っ張らんでもちゃんと歩けるぞ?」
前のめりになりつつ、少し慌てたように問う。
「まぁまぁ、いーからいーから。暇j暇なお前と遊んでやろうってゆうんだ。黙って付いて来い」
「誰が暇暇じゃ!おぬしはいつもいつも…」
うーっと恨みがましい声も涼しげに聞き流し、いたずらっ子のような笑みを向ける。
「リュート達もも待ってんだからさぁ」



葵が連れて来られた場所は郊外の森の湖だった。
畔には慌てた様子のマリンがお店を開いていた。
その脇には可笑しそうな、困ったような微笑を浮かべているリュート。
そして、さらにそれを観察しているアクア。
葵が呆けていると、アークが呆れたように駆け寄る。
「おい、一体何の騒ぎなんだよ!用意してろって言ったろ?」
「それが、ないんだって。一人分。」
よくは分からないが、どうやら何かが足りないようだ。葵も畔に近づく。
見ると、釣り用具がバラバラと置かれていた。
確かに4人分しかなく、今さっき連れて来られた葵の分がないので慌てていたのだろう。
「よくは知らんが、足りないのならば仕方なかろう。では、私はこれで行くぞ」
踵を返し始めた葵を慌ててアークが引き止める。
「おいおい、何でそうなるわけ?お前はいいからここにいろって」
アークに腕を取られ、葵は不思議そうに見やる。
「しかし、なにやら一人分がないのであろう?なら、私が消えればそれで数が合うではないか。
何をそんなにムキになっておるのだ?」
そう問われるとぐうの音も出ないのか押し黙る。

再び踵を返そうとした途端、能天気な声が聞こえてきた。
「おやおや〜、皆さんお揃いでー。さては、この私の好きな場所を予めサーチして、待ち伏せていたんだね?」
ダリス国からの大使、シリウスだ。片手にボビーを装着しニコニコと笑っている。
揉めている最中に、一番といっていいほど嫌いな相手が突然現れた為、
その不満を当てるかの如くアークが叫んだ。
「んなわきゃねーだろっ!!」
「ぁあああ、シリウス様、こんにちは。アークの事赦してやって下さい」
ゆっくりと近づいてくるシリウスに向かって慌ててリュートが頭を下げる。
たかが騎士風情が、大国の大使に対して取っていい態度ではなかったからだ。
本来ならすぐさま無礼打ちになっても可笑しくない。
そんなリュートにシリウスがニコニコと笑んで頷く。
そして3人の娘たちに向かって優美にお辞儀をする。
「やぁ、麗しの星の娘候補達。こんな所にいたんですか」
ばらばらに3人娘が挨拶をすると、唐突にアクアが口を開く。
「ねぇ、シリウスは今暇?」
驚いてアクアを見る4人に、ニコニコと食えない笑みを浮かべるシリウス。
「暇だったら、どうなんだい?アクア殿」
「一人余分だったのよ。暇なら少しあたしに付き合って」
「「アクアさん?」」
「アクア殿?」
「おめー何勝手に…」
周りのどよめきも気にせず、シリウスは笑みを深くしアクアを抱え上げた。
腕の中のアクアに満足そうに微笑む。
「了解したよ。それでは諸君、さらば!」
『サラバーーーー』
嬉しそうにはっはっはと笑いながらアクアを抱き上げ走り去るその後姿は、幼児誘拐犯のそれだった…。

「なんだったんだ…?あの野郎…」





「良かったのかい?皆で何かやるんだろうに」
暫く進んでシリウスは口を開いた。
「いいのよ。あのままじゃぁ何も出来なかったも同然だもの。
それに、私がいないほうが都合良いだろうし。…人数的に」
そう言ったアクアをシリウスが優しく微笑む。
「優しいんだね、アクア殿は」
「そうでもないわ。後でアークに今回の事を理由に強請るから」
さらっと言うアクアに、シリウスの笑みが深くなる。
「君は優しいよ。他の人間とは違う優しさだ。君らしい優しさ」
それを大切にねと言うシリウスは、本当に暖かく思えた。
アクアは赤くなる頬を見られまいと先を歩く。
「私が私を大切にしないで、誰が私を大切にしてくれるの?
自分が嫌いな人は、他人から好かれる権利はないわ。
自分が嫌いな人は、他人を好きになる権利も、ないわ。
だって、自分が嫌いなんだもの。
そんな人が、『好き』と言う感情を正しく理解なんてできないわ。
だから、私は私を大切にするの」



「と、とにかくこれで人数が合ったな…」
「まぁ、一応ね…」
まだ呆然としているアーク達は、ノロノロと準備に取り掛かる。
毒気をすっかり抜かれ、頭が上手く働かない。
「とりあえず釣りをしましょ?そのために来たんですし。
アクアさんの所には、私が持って行きますから」
一番シリウスに慣れているマリンが仕切る。一人でも冷静な者がいると、自然冷静さが戻る。
咄嗟の事で帰ることを忘れていた葵がアークに連れられ、半ば無理やり釣りをしていた。




バケツいっぱいに入れられた魚を見て、リュートは感嘆の声を上げた。
「わぁ、やっぱりマリンさんって釣り上手だね」
リュートが感心したように声を掛ける。
「えへへ、結構やってましたから。それに今回こそ、アークさんに勝ちたいですし!!」
「あはは。前は惜しかったよね。あの魚が釣れてたら、勝てたのに」
「力がなくて悔しいですぅ〜。でも、負けません!今日こそギャフンと言わせて見せますから!」
さながらバックに炎を燃やしながらオー!っと気合を入れるマリンに、優しくリュートが微笑みかける。
「頑張ってね、マリンさん。応援してるから」
「はい!」





「何故釣りなどしておるのだ、私は?」
「何故って、そりゃおめー今日釣りやるって決めたからだよ」
「私は聞いてもおらんし、やるとも言うておらんではないか?」
「俺が決めた」
「…おぬしのその考え方、どういう理屈かわからんぞ…」
疲れたように葵が嘆息する。
「でも、悪かねーだろ、こーいう日も、さ」
「…たまには…な」
柔らかく笑むアークに、葵も同じ柔らかな笑みで返す。




後書き

リュートvマリン、アークv葵、シリウスvアクアの混合カプ物。
途中わけわかんなくなってきました…。
ファンタ2って好きだけど書きずらい〜(泣)
これも一体書き上がるのに何日かかったんだ?
日数掛かってる割に内容はへぼへぼだしな…。
作中の、『私が私を大切にしないで、誰が私を大切にしてくれるの?
自分が嫌いな人は、他人から好かれる権利はないわ。
自分が嫌いな人は、他人を好きになる権利も、ないわ。
だって、自分が嫌いなんだもの。
そんな人が、『好き』と言う感情を正しく理解なんてできないわ』
と言う台詞は、管理人が思っている事です。
自分が嫌いなやつは他人も好きになるなと言うのではなくてですね、
自分が自分を嫌っていたら、悲しいじゃないですか。
誰よりも自分の事をわかっているのは自分なんですから。
なのに、自分が嫌い。でも皆は私を好きになってって言うのは図々しいですよ。
自分は自分が嫌いなのに、他人に好かれる訳ないじゃないですか。
そう思いませんか?


03.10.18UP



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